ランチを食べながら、最初の話題は、占いとは一見、なんの関係もない税理士の件だ。
「アヤ。税理士さん紹介してくれて助かったわ。来年の確定申告が楽しみよ」
派遣で働いていたときの人脈が役に立った。
「よかった。翔子には、名刺とチラシの印刷屋さんを紹介してもらったから」
「お互い、個人事業主だものね。これからも情報交換していきましょ」
占い館の社員でなければ、占い師はひとりひとりが個人事業主だ。税金の申告など経理も、顧客開拓のための営業も、自分自身の健康管理も、すべて自分でしなくてはならない。
大変だけど、そのぶん、大きなやりがいがある。がんばればその分、自分に返ってくる。派遣の事務員だったときは、誰のためになぜ仕事をしているのか、ぜんぜん実感がなかった。
「来週の占いイベントの件だけど」
翔子に言われて、アヤは手帳を取り出した。そう、自分自身のスケジューリング、つまりマネージメントも重要な仕事だ。
「土日とも出られるわ。大丈夫よ」
翔子が所属している占いの館のイベントにアヤも出ることになったのだ。一日五時間で出演料は一万円。占い師が対面で仕事を受けるとき、顧客ひとりあたりいくらという歩合制の場合と時間給の場合がある。今回は時間給だ。アヤは気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ翔子。あたしも何か衣装用意したほうがいい?」
占いの館に出ているときの翔子は、黒のロングドレスに紫色のヴェールをかぶっている。それが翔子の仕事服だ。けれど、アヤは、喫茶店での対面鑑定しかしたことがないので、仕事服を持っていない。
翔子は、一瞬首をかしげて、肩をすくめた。
「いっそ、コスプレ占いってのはどう? 巫女服とかいいんじやない?」
「冗談! だいたいタロットに巫女服って、ありえないでしよ」
「じやあ、魔女服とか? セクシー魔女とか?」
「無理!」
結局、翔子がいくつか持っているというレースのヴェールを借りることになった。
ランチのあと、デザートもしっかり平らげて店を出た。