アヤは、駅近くの喫茶店で個人鑑定の予約が入っている。

約束の時間よりすこし早めに喫茶店に向かう。個人事務所を持っていない占い師が対面鑑定するときは、喫茶店を使う。占いをするので、席と席の間かできるだけ離れていて、あまりうるさくない喫茶店を探して、いつも使っている。

初めての客が分かるように、テーブルにタロットカードを置いておく。

喫茶店のドアを開けて入ってきた若い女性が、どこか不安げな顔であたりを見まわしている。

アヤは立ち上かって、軽く会釈した。

若い女性が、テーブル上のタロットカードに目をとめた。アヤは女性に語りかけた。

「はじめまして。お電話で依頼してくださった斉藤さんですね」

女性がうなずく。

それぞれに飲み物を注文してから、さっそく相談を聞く。

アヤは、対面鑑定を一石の方法で引き受けている。一つはインターネットの自分のサイトから。そもそも占いで初めてお金を得たのもブログヘのメールからだった。

好きな占いの話をあれこれブログに書いていたら、鑑定してほしいというメールが来るようになったのだ。最初は無料で鑑定してメールで返信していたが、相談者が増えて待ってもらうようになると、お金を払うから、と言われるようになった。

それからすぐ対面鑑定もするようになった。今はインターネットのほかに、チラシを作って、近所のパワーストーンを扱っている雑貨屋や、ネイルサロンにも置いてもらっている。最初はパソコンで印刷していたが、今は翔子が紹介してくれた印刷屋で刷ってもらっている。一度鑑定してくれたお客には、季節ごとに匸言占いのはがきを作って送っている。

「来週の上日は、イベントに出るから、よかったら来てみてくださいね」

鑑定を終えて、若い女性はさっきまでとはまったく違う、すっきり晴れやかな顔でうなずいた。

「ありがとうございます! ラッキーストーンはローズクォーツですね! みてもらって本当によかったです!」

この瞬間、占い師をしていて心底良かったと思う。

女性が財布を取り出した。鑑定料金は一時間八千円。高校生の場合は、一時間五千円の学割料金に設定している。イベントでは、15分千円とか、30分三千円というような設定が多いが、対面鑑定の場合、何人も続けてみるわけではないので一回一時間以上、二時間以内と決めている。

「またすぐ来ます! 今度は友達連れて!」

占いの仕事は、こうして口コミで広がっていく。お客に満足してもらえる鑑定をすることが、なにより一番の営業になる。そのためには、誠実でいること。アヤの鞄の中には、手作りのローズクォーツのお守り石も用意してある。希望者には五百円で販売もしているけど、こちらからすすめたりはしない。

アヤは、お金を受け取り、領収書を渡した。

「次に占うのは、状況が変わるか、少なくとも1ヵ月以上経ってからよ」

メールで占っていたとき、毎週、毎日のように占いを依頼してくるお客がいた。同じようなことを何回も占っても無意味だし、占いに依存してしまうのは、決していいことではない。

占い師として人に頼られることは正直に言って嬉しいし気持ちがいいものだ。それだからこそ相談者が占いに依存しないように意識して気を配っている。

反対に占いを単なる商売と思っているような人であれば、これはありがたい客ということになってしまうのであろう。

そこに占い師というものの矛盾があるのである。

問題が発生して占ってもらいたいと思うとき、人は必ず不安を抱えている。もし世界中の人が全員幸せだったとしたら、占い師というものは、必要なくなってしまうのかもしれない。

アヤは、しっかりと女の子を見送ってから喫茶店を後にした。